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The Low End Theory

ア・トライブ・コールド・クエスト

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ヒップホップをブラックミュージックの豊潤な歴史に位置づけたマスターピース。

洗練されていながら誰にも似ていないユニークさも兼ね備えたQティップによるサウンドプロダクションの妙と、自虐的でありながらノリの良さも併せ持つファイフ・ドッグのラップが魅力の1990年の傑作アルバム『People's Instinctive Travels and the Paths of Rhythm』。このリリースがきっかけになり、それまではヒップホップを無視していた辛口な批評家も急にア・トライブ・コールド・クエストに注目するようになった。ただ、少なくともその時点における批評家たちは、アフリカ系アメリカ人コミュニティの音楽が持つ長い歴史や伝統と地続きのアートフォームであるヒップホップの本質に深く根差したルーツが、ア・トライブ・コールド・クエストの根底にあることを見落としがちだった。そのような誤りをあらゆる角度から完全に是正することを意図的に狙って、見事その難題に満点の解答を出してみせたのが1991年にリリースされた『The Low End Theory』だ。

アート・ブレイキーのうねるようなサンプルと巧みなライミングが印象的な「Excursions」から、リーダーズ・オブ・ザ・ニュー・スクールのメンバーとバスタ・ライムスが飛び入りして集団でラップをする楽しさを詰め込んだポッセカットの「Scenario (feat. Busta Rhymes, Dinco D & Charlie Brown)」まで。『The Low End Theory』は、ア・トライブ・コールド・クエストと似た嗜好性と志を持って活動していたデ・ラ・ソウルやブランド・ヌビアンに代表されるニューヨークのコンテンポラリーなラップアーティストが描き出す世界観と、ジャズが培ってきた豊かな伝統をつなぎ、黎明(れいめい)期のパークジャムで大衆を沸かせていたフリースタイルから、複雑かつ洗練されたヒップホップ黄金時代のライミングまで、あらゆる要素を生かした作品となった。